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連載開始に寄せて 『盲のキューピッド』



『盲のキューピッド』
連載開始に寄せて
生田耕作と奢灞都館のことなど




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 一枚のチラシがある。仏文学者の生田耕作が主宰・編集していた神戸の小出版社<奢灞都館>が新たに企画した双書の刊行予告チラシ。
 30年ほど昔、1982年春ごろのものだ。双書のタイトルは<アール・デコ文学双書>、冒頭には次のように謳われている。



“狂った歳月” Folles Annees ― 1920年代

“装飾的芸術” Art Deco の時代とも呼ばれ、文明が爛熟とデカダン
スの豪奢な人口花を絢爛と咲き誇らせ、大恐慌の灰色の季節の到来
とともに急速にその彩りを凋ませた―天国のこちら側(ジス サイド オ
ブ パラダイス)。燃え上がる青春―禁酒法―ギャングスター―ヴァレ
ンチノの「シーク」―ヒスパノに乗った男―失われた世代―クララ・ボ
ウとイット―Jazz Age―フラッパー娘―シュトロハイムと陽気な未亡人
―パリのホテル「リッツ」―ロンドンの「サヴォイ」―パリが<夜開き
>、読者がグリーン・ハットと金髪を好み、オリエント急行が動く客間
(サロン)に変わり……ヨーロッパ全体が長い乱痴気騒ぎに乗り出し
た……そしてグレート・ギャツビーのロマンチックな夢を育んだ
――Only yesterday、懐かしい20年代の雰囲気を伝える作品を選ん
で出版当時の装いを再現して贈る……。




 第1回の配本予定は同年10月の『殿方は金髪がお好き』(アニタ・ルース作/秦豊吉訳/ラルフ・バートン挿絵)、続いて翌1983年1月の『イット』(エリナ・グリン作/松本恵子訳/映画スチール写真入)、そして第3回配本予定として1983年4月に、今回当ブログにて連載がはじまった『盲のキューピッド』(カール・ヴァン・ヴェクテン作/アラステア挿絵)が予告されている。

 さらに続刊予定として、『人口皇女/ロナルド・ファーバンク』『グリーン・ハット/マイケル・アーレン』『楽園のかけら/スコット・フィッツジェラルド』『悪の王国/ベン・ヘクト』『ショウ・ボート/エドナ・ファーバー』『女騎士エルザ/ピエール・マッコルラン』『黄金/ブレーズ・サンドラール』『オリエント特急/ポール・モーラン』『寝台車のマドンナ/モーリス・デコブラ』と錚々たるタイトルが並ぶが、結局この双書は、最初の二巻が刊行されたのみで中断、第3巻以降は刊行されることなく現在に至っている。

 中断の理由については、多少知るところがある。主には出版経済上の問題、つまり「売れなかった」のが主な原因ではあるが、第三回配本予定であった『盲のキューピッド』の翻訳が遅れ、刊行の時期を逸したことも一因ではあった。
 その言語道断な翻訳者が私である。爾来三十有余年。生田耕作はすでに亡く、<奢灞都館>はその出版活動を停止し、双書は中断したまま、私の負い目だけが生き続けていた。



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Kousaku Ikuta, photographed by kouji Wada, in Kyoto



 十年ほど前のこと、<アール・デコ文学双書>復活の夢を持つ若者と知り合ったのをきっかけに筐底を探り、中断したまま捨て置かれていた訳稿を取り出した。それからさらに十年。若い友人松本慎介君の叱咤勉励と援護射撃を得て、ようやく生田耕作への積年の借りを返す機会を得た。君には感謝に耐えない。

 カール・ヴァン・ヴェクテンについては、このブログでも以前に少し紹介したことがあるが、いずれ連載の期間中にさらに詳しく触れる機会をもちたいと思う。
 本作品が生まれた時代背景については先のチラシにある通りだが、作品そのものについても同じチラシに語ってもらうことにしよう。なおこのチラシの文責は亡き生田耕作にある。


第3回配本(’83 4月)
『盲のキューピッド』
カール・ヴァン・ヴェクテン


 一人息子のために出来るだけ<身持ちの悪い>家庭教師を求め
る、風変りな父親の発想から持ち上がった奇想天外のextravaganza。
純真な美少年ハロルドのまわりを、美とデカダンスの生活に徹した型
破り大人たちが取り巻く。<げに美わしきものは永久(とこしなえ)に
少年なるかな>。キーツの詩のもじりをモットーに掲げる男色貴族ミド
ルボトム公爵を先頭に…。


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『盲のキューピッド』初版本口絵

連載がはじまりました。
諸賢にお読み頂ければ幸いです。

(恩地源三郎記)

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